ムンプスワクチンの開発と開発過程における問題点
小児感染免疫第21巻第3号 - 021030263.pdf
伊 藤 康 彦
私
は
,名古屋大学医学部で故永田育也先生の指導の下,
インターヘロンの産生機構とセンダイウイルス持続感染の研究を行っていた.
永田先生は,私がフランスのパスツール研究所在籍中に病気になり,1977年の2月に亡くなられた.
私はお亡くなりになる2カ月前に急遽戻り,やっとのことで先生の最期に立ち会うことができました.
そこで,私の研究環境が激変し,私自身フランスへ行った以外は,
名古屋大学医学部から離れたことがなかったのですが,縁あって,
1982年に国立予防衛生研究所(予研,現在の国立感染症研究所の前身)村山分室,麻疹ウイルス部(杉浦昭部長)に行くことになりました.
名古屋からほとんど一歩もでたことがない自分が,東京へ行くことに大変不安であったことを覚えていますが,
そこでは良い仲間に恵まれ,交友関係が随分広がり,それが今でも
自分の財産になっています.
そこで初めて,ワクチンの研究に携わることになりました.
日常業務としてはワクチンの検定作業があり,研究としてはムンプスウイルスの基礎的研究とムンプスウイ
ルスのマウス感染モデルを作製することにも力を入れました.
そして,ムンプスウイルスだけを考えるのではなく,ヒト型パラミクソウイルス全体
像を視野に入れる必要がでてきて,すべてのヒト型パラミクソウイルスの比較研究へ研究分野を広げていきました.
予研でのもう一つの大事な仕事は,麻疹,風疹およびムンプスの混合ワクチンの実用化に関する
研究でした.
弱毒生ウイルス混合ワクチン(MRM,以下,MMRと表記)研究班の最後の年にあたり,
野外接種実験の最終評価が大詰めを迎えていましたが,いろいろな難問題が山積みでした.
野外接種実験で抗体陽転率が高くならない,抗体測定法の感度が低いうえに,その判定に主観がどうして
も入り込む,プラックサイズマーカーがあてにならないなど,どれもムンプスウイルスに関係することばかりでした.
不思議な不顕性感染率の算定方法を知ったのもその頃でした.
予研にお世話になったのは4年弱の短い間ですが,その間MMR開発研究のお手伝いをし,
MMRワクチンの実用化の準備が整ったところで,
三重大学医学部へ移りました.
1989年4月からMMRワクチンの接種が始まり,喜んでいたところが,
例の無菌性髄膜炎の問題が起こり,衝撃を受けたことを覚えてい
ます.
本稿では,ムンプスワクチン開発中の経過について,率直に書かせていただきましたので,
ぜひ反面教師にしていただきたいと思います.今後ムンプスワクチンの接種率が高まり,
またMMRワクチンが復活し,ムンプスの流行がなくなることを期待しております.
は じ め に
ムンプスは,和名でおたふくかぜといわれてきたように,発熱と耳下腺腫脹を特徴とする伝染性
疾患である.ムンプスは一般には軽症と考えられがちであるが,その全身の感染によるいくつかの
合併症を考えると必ずしも軽症ではなく,やはり予防して防ぐべき病気であるということができる.

I.
ムンプスウイルスについて
ムンプスウイルスは
1934年,
JohnsonとGood-pastureによって初めて分離された.
分類学上ではパラミクソウイルス属に分類され,遺伝学的にも免疫学的にもパラインフルエンザウイルス
2型や
4
型と同じルブラウイルスに属している.ムンプ
スウイルスのゲノム構造は
1
本鎖で,直鎖状のマ
イナス鎖
RNA
であり,
15,384
塩基から構成され
ている.
ゲノム上の遺伝子の配列は,
3’
-
leader
-
NP
-
P
-
M
-
F
-
SH
-
HN
-
L
-
trailer
-
5’SH
を有していると
ころがユニークである.
II.
ムンプスの発症病理
ムンプスウイルスは患者の唾液を介した接触感
染,または飛沫感染で,ヒトからヒトへ伝搬する
と考えられている.周辺への伝染力は意外に強く,
同居家族では
97.4
%
,室内の友人でも
89.5
%と高
率に感染している
7,6
)
.経気道的に感染して鼻腔粘
膜や上気道粘膜上皮で増殖し,所属リンパ節に感
染が広がる.ついでウイルス血症が成立し,全身
の標的組織に感染する.耳下腺(唾液腺)におい
てウイルスが主として増殖すると考えやすいが,
耳下腺はムンプスウイルスの第一次的なウイルス
増殖臓器でもなく,また耳下腺でのウイルスの増
殖が不可欠のステップでもない.ウイルスが感染
して,臨床的な症状が出現するまでに
2
~
3
週間
を要する.生体内における感染様式を
図
に示す.
後述するように,その算定方式には疑問が残るが
不顕性感染も多く,
30
~
40
%
といわれている
1
~
3
)
.
特に年少者で無症状感染が多く,しかも彼らから
ウイルスが分離されることもあり,伝播源として
重要な役割をもつことが考えられている.
III.
ムンプスの合併症
(
表
1
)
耳下腺腫脹がムンプスウイルス感染症の最も顕
著な特徴であり,流行性耳下腺炎と呼ばれている
理由であるが,実際は全身感染症で,唾液腺はそ
の一つの部分現象であり,最も頻度の高い侵襲部
位と考えたほうがいい.
1
.
ムンプス性髄膜炎
中枢神経系は,耳下腺に次ぐムンプスウイルス
の標的臓器である.ムンプスウイルスをマウスや
サルの脳内に接種すると,病理学的に髄膜炎と確
認できる病変を生じさせ得る
4,5
)
.わが国で無菌性
髄膜炎と診断された症例で,ムンプスウイルスに
よるものが比較的多いといわれている(
30
数%)
3
)
.
米国での報告によれば,髄膜炎発症率は
0.3
~
0.4
%
となっていた
3
)
.近年ではもう少し高いのではな
いかといわれており,報告者による差が大きいが
2
~
37
%,
平均では
10
%前後であるとされてい
る
1,6
)
.注目すべきは髄膜炎症状のない患者の髄液
検査で,
62
%に髄液細胞増多を認めたという報告
もある
4
)
.また,髄膜炎合併率が
73
%にもなると

いうウイルス(大館株)も知られている
4
)
.
2
.
ムンプス性難聴
ムンプスウイルス感染が中枢神経に及んで,第
八脳神経の聴神経の脱随を伴う二次性迷路炎を起
こすことがある.ムンプス性難聴の発生率は必ず
しも高くはなく約
2
万人に
1
人程度と考えられて
いたが,青柳らは
1
/
294
(
0.34
%
)という高頻度
の調査結果を報告している
7
)
.好発年齢も幼稚園~
学童期に多いし,治療に極めて抵抗性であり,そ
の結果,高度の難聴を後遺症として残すことも多
いので注意が必要である.
3
.
ムンプス性精巣炎
思春期後の男性の場合,唾液腺以外で最も広く
起こる合併症である.その発生率は
20
~
30
%にの
ぼり,多くは一側性で,症状は急激で発熱と局所
の疼痛を伴う.通常は完治するが,まれには無精
子症を後遺症として残すことがある
1,3
)
.近年,中
学生にも発症が確認されている
1,3
)
.
4
.
その他の合併症
その他の合併症として膵臓炎や心筋障害が報告
されている.
以上ムンプス合併症には軽視できないものが少
なくない.しかも,
1
基本的にはヒト以外には感
染しないこと,
2
世界に広く分布しほとんどのヒ
トは一生のうちに
1
度は罹患すること,
3
ムンプ
スウイルスは抗原的にはかなり保存されていて,
一度の感染で終生の免疫が成立すること,があり,
ムンプスはワクチンによって予防が必要であり,
予防が可能でありかつ予防によって制御が可能な
疾患であるということができる.
IV.
日本におけるムンプスワクチンの開発の歴
史
3,8,9
)
1946
年に
Enders
らによりムンプスワクチンの
研究が始められた.最初は不活化ワクチンが用い
られたが,予防し得る期間が短く,効果も芳しい
ものではなかったので,弱毒生ワクチンの開発に
その研究が移った.ムンプスウイルスを孵化鶏卵
羊膜腔で継代して,弱毒生ウイルスワクチンとす
るという研究が進められ,
1966
年に
Jeryl
-
Ly
nn
株生ムンプスワクチンが作られた.このワクチン
は,抗体陽転率もよく,副反応も少ない非常に安
定したワクチンということで,現在世界的に広く
使われている.
日本のムンプスワクチンは,初めから弱毒生ワ
クチンの研究で出発した.
1960
年以後阪大微研
奥野らによって,まず孵化鶏卵漿尿膜継代で弱毒
化された
To w a t a
株
,続いて孵化鶏卵羊水腔で継
代し,弱毒化した,
Urabe
株を開発し,試作ワク
チンの作製に成功した.
1970
年厚生省科学研究費による『ムンプスワク
チンの開発に関する基礎的研究』
(研究代表者
奥
野良臣)によって公的な基礎的研究が始まり,続
いて
1972
年に,多くの基礎ウイルス学研究者と
臨床ウイルス学研究者を会員とする『ムンプスワ
クチンの開発研究会』
(研究代表者
宍戸亮)が結
成され,以後この研究会が中心となってその実用
化のための研究が推進された.この研究会では奥
野らの開発した
Urabe
株ワクチン,武田薬品生物
研で矢追らが開発したウシ腎臓細胞継代により弱
毒化された
To r
ii
株ワクチン,北里研究所
牧野ら
が開発したニワトリ胚線維芽細胞に低温で継代し
て
,弱毒化した
H
oshino
株ワクチンが検討対象に
なった.研究会では野外接種試験での免疫原性や
副反応の検討以外に,麻疹および風疹ウイルスと
の混合ワクチンの使用の可能性,ワクチンに含ま
れる最適なウイルス量の検討,ワクチンの品質管
理に必要なワクチン株の各種動物を用いた安全試
験の検討,
in vitro
や
in vivo
の
マーカー
試験の検討
なども行われた.
これらの研究会での研究成果をもとにして,
Urabe
株ワクチンや
H
oshino
株ワクチンが選ばれ,
これに対しては厚生省中央薬事審議会ではその製
造に必要なムンプスワクチンの基準を決めた.ム
ンプスという言葉がわかりにくいため,薬品名と
しては弱毒生おたふくかぜワクチンと呼称するこ
ととなった.
1978
年には厚生省の特別研究費で
「
これまですでに開発の進んでいる国産ワクチンに
ついて最終的にその力価の評価,安全性の検討を
してその実現化を図ることを目的」とした研究会
(研究代表者
宍戸亮)が組織され,その報告書は
翌年の
3
月に刊行された.その結果,
1981
年
2
月から任意接種として,一般接種が開始された.
ツイート


V.
ワクチンの免疫原性と効果
ワクチンの効果を判定するには感染防御を指標
とする中和抗体を測定するのが理にあっている.
この検査法は,感度はあまり良くないが
10
)
,
Urabe
株ワクチンや
H
oshino
株ワクチンの中和抗体によ
るその免疫原性の調査では,
10
4
TCID
50
/
m
l
以上
の力価のあるワクチンウイルスでは,ワクチン被
接種者の
90
%
以上が抗体陽性になることが確かめ
られていた
3
)
.
生物学的製剤基準解説(解説と略)
11
)
には「わが国で開発され承認された
Urabe
-
Am9
株,
To r
ii
株,
Hoshino
-
L32
株,
Miyahara
株,
NK
-
M46
株はどれもほぼ同様な性状を示す.抗体陽転
率では,
12
~
20
カ月児で
92
~
100
%
になる」と記
載されている.
VI.
ワクチンの副反応
宍戸研究会で発表された副反応のまとめを
表
2
に示した.その頻度は
1
%を超えない程度で,極
めて軽微であると結論された.中枢神経障害につ
いては接種例が少ないので,報告がないとされた.
当時の米国での成績では,
1968
~
1976
年の間に
16
例の報告があり,ワクチン接種者
100
万人当たり
0.9
人と計算され,この数は自然ムンプス
100
万
人当たり
2,600
人の髄膜炎発生率に比べれば,は
るかに少ないことは明らかであると結論された.
そして,日本において今後ムンプスワクチンが広
く行われるにしても,おそらくはこれに近い極め
て低い発生率であろうと予想された
3
)
.しかしな
がら,無菌性髄膜炎の発生頻度は予想より高く,
現行の解説
11
)
にも「
Urabe
-
Am9
株による副反応と
しての無菌性髄膜炎頻度は,
10
万例に
5
~
100
件
程度に達し,
Jeryl
-
Ly
nn
株より高く,
Leni
ngrad
-
3
株とほぼ同等の値を示している」と記載されて
いる.
VII.
MMR
ワクチンの開発
ムンプスワクチン開発当初から混合ワクチンの
構想は考えられていた.
1974
年には厚生省委託研
究費による『麻疹・風疹及びムンプスの三種混合
ワクチンの実用化に関する研究班』
(
研究代表者
宍戸亮)が発足し,野外接種実験を行った
12
)
.ム
ンプス中和抗体陰性者に対する三混ワクチン接種
による抗ムンプス中和抗体の陽転率および平均抗
体価は,微研ワクチン
95.5
%,
2
2.8
,北研ワクチ
ン
86.6
%,
2
3.5
であったと報告された.この陽転率
は,その後の野外接種試験の結果を知るものには
信じられないくらい高い.
「
2
2
前後のところに抗体
価が集中している」という記載も注目され,その
判定に主観的判断が入り込む余地があったと感じ
られる.臨床反応についても,
「
ワクチン被接種者
の示した臨床反応はほとんど皆無であるといって
よい」と報告され
12
)
,将来ムンプスワクチンは混
合ワクチンとして使用することも可能であると結
論された.
諸々の事情のため一端中断の状態にあったとの
ことであるが,
1978
年には単味のムンプスワクチ
ンの実用化を目指す最後の研究会が組織され,
1979
年にはその報告書が出された
4
)
.続いて,
1980
年
には,
「
それぞれの単味のワクチンが実用に供され
るようになって
3
年以上が経過し,それぞれの評
価もおよそ定まったと考えられるので,適切な組
合せの単味ワクチンを用いて安全かつ有効な
MMR
ワクチンを作製する可能性を再び検討する」
という『弱毒生ウイルス混合ワクチン(
MMR
)開
発研究班』
(
研究代表者
宍戸亮)が発足した
5
)
.

1
年経過した後,研究代表者は杉浦昭先生に交代
した.この研究会では,
「
合理的かつ科学的根拠に
基づいて最良の組合せを提示し得るならば,
1
種
類の
MMR
ワクチンを普及するほうが,多種類の
ワクチンの出現をみるよりも,国民の健康のため
には望ましい」と考え
5,14
)
,過去の実績に基づき,
麻疹については北研
AIK
-
C
株
,ムンプスは微研
占部株,風疹は
To
-
336
株の統一株を提案した.
私が予研に赴任したのは
1982
年
4
月で,
MMR
開発研究班(杉浦昭班長)の最後の年であった.
そこでは,抗体陽転率の低さが問題になっていた.
第
1
回目の
MMR
ワクチンの野外接種実験(
1981
年
11
月~
1982
年
1
月の間に実施)の結果は,
MMR
ワクチン接種後抗体陽転率は
64.8
%
,獲得
された抗体価平均値
2
4.0
,ムンプス単味ワクチン
接種後抗体陽転率は
65.3
%,
平均抗体価
2
4.1
であり,
いずれの種類のワクチンを用いても陽転率も抗体
価も満足すべきものとはいえなかった(
表
3
)
.
第
2
回目の野外接種実験(
1982
年
11
月~
1983
年
1
月の間に実施)
はムンプスワクチン株を占部
Am
-
9
株から鳥居株に変え,接種ウイルス量も前回の
10
4.0
から
10
5.5
に増強して行われたが結果は同じで,
MMR
ワクチン接種後抗体陽転率は
51.1
%
,平均
抗体価
2
3.7
,鳥居株単味ワクチン接種後抗体陽転
率は
40.0
%,平均抗体価
2
3.8
であった(
表
4
)
.同
時に測定した占部株単味ワクチン(ウイルス量は
前回より
10
倍多い
10
5.0
)でも,陽転率
56.5
%,
平均抗体価
2
3.5
であった(表
4
)
.すなわち,いず
れの種類のワクチンを用いても陽転率も抗体価も
1
回目同様やはり満足すべき結果は得られなかっ
た.それまでの研究会で得られた陽転率とは随分
異なった結果であった.例えば,特別研究「ムン
プスの予防に関する研究班」
(
宍戸亮班長)の報告
しているムンプス単味ワクチン接種後抗体陽転率
は明らかに高く,
10
5.0
前後のウイルス量を用いれば,
いずれのワクチン株であっても
86
%
と報告されて
いる.
そこで抗体検出感度を上げることにし,補体添
加中和法を考案・改善し,第
3
回目の野外接種試
験の検体についてこの補体法を用いて測定した.
その結果を
表
5
に示す.
MMR
ワクチン接種後抗
体陽転率は
84.4
%,占部株単味ワクチン接種後抗
体陽転率は
85.4
%
となり,良好な結果が得られた.
この方法を用いて,さらに
2
回目の野外接種試験
の結果を再評価してみたところ,
MMR
ワクチン
接種例では
82
%
,占部株単味ワクチン接種例では
85.6
%と推定ができ,第
3
回目の野外接種試験と
ほぼ同じ結果になった.その後,補体添加中和法
はさらに改善が加えられ,さらに陽転率は向上し

た
13
)
.
この研究会の結論として,
1
MMR
ワクチンのサル接種では,それぞれ単
独のウイルスを接種した結果生じる以上の病変は
見出されなかった.
2
希望者に
MMR
ワクチンを接種した場合,そ
れぞれの単味ワクチンによって生じる以上の臨床
反応はみられなかった.
3
3
種類のワクチンを混合して接種した結果,
いずれかのワクチンの免疫原性が低下することを
示唆する結果は得られなかった.
以上の成績から今回使用した組合せの
MMR
ワ
クチンは安全かつ有効であると結論される.
4
現在ムンプスワクチンの効果を評価するため
に用いられている中和試験は,自然感染に比して
免疫原性の低いワクチンの効果を判定するには必
ずしも適当でない.判定に際しての客観性を高め
かつ抗体検出の感度を上げるためには補体添加中
和試験がすぐれていると考えられる.
以上の結論で,
MMR
ワクチンの実用化にゴー
サインが出た
5
)
.
統一株が誕生し,
「
1988
年
6
月公衆衛生審議会
伝染病予防部会予防接種委員会から麻疹の定期接
種時に
MMR
ワクチンを接種できるようにすべき
であるという意見が出され,
1989
年
4
月から麻疹
定期接種に際し,同時に風疹およびムンプスの予
防接種を希望する旨申し出があったときには,
MMR
ワクチンが使用できる」こととなった
14
)
.
日本における
MMR
ワクチンの一般接種は,
1989
年
4
月~
1993
年
4
月まで行われたが,
1989
年夏
頃より,
MMR
ワクチン接種後の無菌性髄膜炎の
発生が問題になってきた.
MMR
ワクチン導入以
前にも,任意接種におけるムンプスワクチン接種
後の無菌性髄膜炎の発生報告はあるが,それがワ
クチンウイルスによるものであるか,自然感染に
よるものであるかの判定が難しかった
14,15
)
.しか
しながら,ワクチンウイルス自体により無菌性髄
膜炎を発症した症例が否定できなくなったので,
厚生省は同年
9
月に
MMR
ワクチン接種後の無菌
性髄膜炎の発生について注意喚起をし,同年
10
月には
MMR
ワクチンの接種に慎重を期すべきこ
とを都道府県に通知した
14
)
.実態が明らかになり,
同年
12
月
,保護者からの申し出があった場合に
限り,
MMR
ワクチンを接種するという通知とと
もに,厚生省は通知「
MMR
ワクチンの接種につ
いて」を示し,保護者の判断の参考にするために,
疾患の重篤性,ワクチンの意義と副反応の実態を
事前に周知・広報するように通知した
14
)
.
1991
年
6
月には,
小児科学会予防接種委員会の要望を受け,
「
保護者の申し出があれば,
MMR
ワクチンを接種
する場合には統一株に代え自社株ワクチンが使用
できるようにした」
14
)
。しかしながら,その後も無
菌性髄膜炎の発生状況は改善せず,
1993
年
4
月に
MMR
ワクチンの接種を一時見合わせる措置をとる
に至った.
ここで注意を喚起したいことは,
MMR
ワクチ
ン接種時期には,当然のこととして,ムンプスワ
クチンの接種率も飛躍的に向上し,ムンプスの流
行も一時的に影を潜めていたとの事実があったこ
とである
2
)
.
VIII.
ワクチン開発過程での問題点
1
.
ムンプスワクチンの副反応の把握
ムンプスワクチン開発当時,ムンプスワクチン
の副反応は,同じ弱毒生ワクチンである麻疹ワク
チンなどに比べると,極めて軽微であるという,
楽観的な評価であった
3
)
.しかしながら,よく知
られているように,
MMR
ワクチンの実用化とと
もに無菌性髄膜炎が多発し,その原因がムンプス
ワクチンによるものと確認された.日本における
MMR
ワクチンの一般接種は,
1989
年
4
月~
1993
年
4
月までのわずか
4
年間であったが,被接種者
は
183
万余人に達し,接種後の無菌性髄膜炎は
1,754
人(
1
/
1,044
人
)に発症し,そのうち
PCR
法でワクチン株と同定できたものは
627
人(
1
/
2,920
人
)であった(丸山:厚生省エイズ結核感
染症課)
14
)
.なぜ,無菌性髄膜炎の多発という副反
応が,実用化前に見出されなかったのだろうか.
その原因ははっきりしていて,症例数が絶対的に
少なかったのが理由と思われる.
MMR
開発研究
班(研究代表者
宍戸,杉浦)では
MMR
ワクチ
ンの野外接種試験を
3
回行ったが,すべて数百人
のレベルで,無菌性髄膜炎の副反応を検出するに
は無理があったが,その当時の野外接種試験の症
例数としては,必ずしも少ないほうではな
かった.
次なる問題は,単独のムンプスワクチンと
MMR
ワクチンとで無菌性髄膜炎の発症率は異なるかど
うかという点である(
表
6
)
.星野株ワクチン単独
の無菌性髄膜炎の発症は
17,749
人に
1
人である
が
,星野株を含む北里
MMR
ワクチンでは
1,883
人に
1
人であった.同様に,鳥居株ワクチン単独
の無菌性髄膜炎の発症は
12,718
人に
1
人である
が
,鳥居株を含む武田
MMR
ワクチンでは
1,212
人に
1
人であった.両ワクチンとも,ムンプス単
味ワクチンは
MMR
ワクチンの約
1
/
10
の発生と
なっている.これは麻疹・風疹ワクチンとの混合
による影響なのかについての詳細は解析されてい
ない.ただ,奇妙なのは占部株ワクチン単独の無
菌性髄膜炎の発症は
6,435
人に
1
人と他の株の
2
~
3
倍であるが,占部株を含む阪大微研
MMR
ワ
クチンでは
18,686
人に
1
人と,
明らかに低
かった.
MMR
研究会が推奨した統一株には占部株が含まれ
ており,その発症は
933
人に
1
人と高率で,明ら
かに自社株とは発生頻度に大きな違いがあること
が明らかになった.一方,国立予防衛生研究所で
は,プラックサイズの分布と細胞における増殖曲
線から統一株に含まれる占部株と微研自社株ワク
チンに含まれている占部株とは異なっていること
を見出した
16
)
.ここで,占部株ワクチンに対する
疑念が生じ,立入検査が行われ,薬事法違反の事
実が確認され,すでに承認されているワクチン製
造法とは異なった方法で製造されていることが明
らかになった.この経過については現感染研のム
ンプスワクチンの責任者である加藤の論文に詳し
く記載されている
9
)
.現在,阪大微研では,ムン
プスワクチンも
MMR
ワクチンも製造と販売を中
止している.
1991
年
10
月に自社株
MMR
ワクチンの市販さ
れたのを契機に,
「
わが国における自社株および統
一株
MMR
ワクチンに関する」研究班(研究代表
者
木村三生夫)が組織され,全国的に
MMR
ワ
クチンの接種後の副反応につき主として無菌髄膜
炎の発生に関して
prospective study
が,
1993
年
4
月に
MMR
ワクチン接種見合わせの指示が出るま
で続けられ,詳細な報告がなされている
16
)
.本研
究班による各ワクチンの無菌性髄膜炎の発生頻度
は従来の調査結果と一致したと結論された.もう
一つの注目すべき結論は,
「
無菌性髄膜炎の発生頻
度が極端に異なる
2
つのムンプスワクチン占部株
について,生物学的性状に相違があることが初め
て明らかにされた.今後のムンプスワクチンの改
良研究に際して,貴重な資料となるものと考えら
れる」という点である.
2
.
ムンプスワクチンのサル接種実験
現行の弱毒生ムンプスワクチン基準ではサル脳
内接種が義務づけられており,
「サル
10
匹以上に,
1
匹当たり検体
0.5
m
l
ずつを左右各半球視床内に


0.25
m
l
を小脳延髄槽内にそれぞれ注射して,
21
日間観察する.この間,いずれの動物も麻痺その
他の神経系の障害を示してはならず,かつ動物の
80
%以上は生き残らなければならない.ただし,
いずれの動物も接種ウイルスあるいは接種材料中
の外来性微生物に基づく異常な臨床症状および死
亡を認めてはならない.さらに,観察期間終了時
に剖検を行うとき,試験動物の中枢神経組織に接
種ウイルスもしくは,接種材料中の外来性微生物
に基づく異常な病変を認めてはならない」
11
)
と決め
られている.が,わざわざサルに接種して検定を
行わなければならない根拠はほとんどなかったの
ではないかと思われる.宍戸も「サル接種実験で,
ワクチン株と野生株との間でその病原性に有意の
差がみられれば,ワクチンの弱毒の
1
つの指標に
なり得るであろう.しかしながらサルに対するム
ンプスウイルスの脳内接種ならびに耳下腺接種試
験では,ワクチン株ウイルスと野生株ウイルスと
の間にさして著しい相違を見出すことはできず,
サル接種試験ではワクチン株の弱毒確認試験とな
り得ないことが見出された」と報告している
3,4
)
.
このことはその後の,
MMR
開発研究班において
も追認されている.これらの事実はムンプスワク
チンの検定にはサル接種試験というのは必ずしも
必要ではないことを示している.ムンプスワクチ
ンの検定におけるサル接種試験は現在でも続いて
いるが,動物愛護の見地からも中止されるべきで
なかろうか.また,このことはムンプスワクチン
ウイルスの弱毒化がまだ十分でないことも示唆し
ている.第
21
回臨床ウイルス談話会において,
「
サルの脳内接種病理像で強毒株と明瞭な差のある
弱毒株を開発するよう,今後引き続き改良の努力
をお願いしたい」という質疑がなされ
3
)
,宍戸は
「
野生ウイルスとワクチンウイルスとの間でサルに
対する反応に差があることが望ましいが,現在の
段階では両者とも弱い反応ながら共通に認められ,
差はみつけられなかった.しかし臨床反応では明
らかに差が認められその安全性を一応は信じたい」
と答えている
3
)
.
3
.
マーカー試験について
弱毒ウイルス株と野生ウイルスとを簡単に鑑別
できるマーカーがあると,ワクチンウイルスを追
跡するうえで,非常に便利であるので,ワクチン
開発初期に,いろいろ調べられた.
in vivo
の各種
動物の感受性試験,
in vitro
の各種細胞に対する感
受性,プラックの大きさ等について検討が行われ,
ワクチン株は
Ve r o
細胞に対して小さなプラックを
作り,野生株あるいは継代株と区別されることが
報告された(
表
7
)
3
)
.このプラックサイズは日本
のワクチン株の品質管理のために使用するように
決められた
3,4
)
.
これはワクチン製造の際の弱毒マー
カーとも理解され,分離ウイルスのプラックサイ
ズを測定し,ワクチン株や野生株のそれと比較す
ることでワクチン株か野生株かの鑑別が可能であ
るといわれた.しかしながら,菱山らがプラック
サイズは比較的簡単に変動し,ワクチン株であっ
ても,
Ve r o
細胞で
1
代継代するだけで容易に大き
くなるような遺伝学的に不安定な性状であること
を明らかにした
17
)
.その後,広島衛生研究所の仕
事も,
「
MMR
ワクチン接種後に髄膜炎を発症した
患者から分離され,予研での
PCR
法による鑑別
の結果ワクチン由来株であると判定されたムンプ
スウイルス株について,それらのプラックサイズ
を測定し,ワクチン株や標準野生株と比較した結
果,分離ウイルスのプラックサイズを指標として
野生株かワクチン株かの鑑別を行うことは適切で
はない」ことが証明された
18
)
.現行の解説
11
)
にも,
「
国産のワクチン株のプラックは野外株のプラック
に比べて小さい.しかし,弱毒株として世界的に
認知され得ている
Jeryl
-
Ly
nn
株のプラックは大き
く,プラックサイズをもってしてヒトの弱毒性の
マーカー
にはならない」と書かれている.
「プラッ
クサイズをもってしてヒトの弱毒性のマーカーに
はならない」ということを認めたことはいいのだ
が,
Jeryl
-
Ly
nn
株はプラックサイズが大きいと書
かれていることに関しては,疑問が残る.開発当
時の報告書の記録には,
「
R
-
66
,
Ve r o
においては,
野外株は大きく,ワクチン株では(プラックサイ
ズが)小さい傾向が認められ,特に
R
-
66
におい
ては
Jeryl
-
Ly
nn
株がプラックを形成されないこと
が注目された」と書かれているし
3,4
)
,本報告(表
7
)のなかでも,
「
Ve r o
細胞でも
Jeryl
-
Ly
nn
株は
プラックサイズが小さい」と書かれている
3,4
)
.こ
の矛盾はどのように解決されたのであろうか.
このプラックサイズマーカーの採用は,他の分
野で大きな間違いをもたらした.ムンプスワクチ
ン接種後にムンプスウイルスが分離された場合,
分離ウイルスが接種ワクチンに由来するのか,あ
るいはたまたま同じ時期に自然感染した野生株に
由来するのかの鑑別に,このプラックサイズマー
カーが採用された.その結果,ムンプスワクチン
接種後にムンプスウイルスが分離された場合のほ
とんどが野生株由来であると判断されたが,その
後の研究成果から判断すると,これらのなかには
かなりの高率でワクチン由来ウイルスが含まれて
いたと推測される.
1989
年の厚生省予防接種副作
用研究班における山田らの報告
19
)
によれば,ワク
チン接種後耳下腺腫脹および軽度の髄膜炎症状を
呈したものから得られた
8
株を
PCR
法で同定した
ところ,すべてワクチン株と同一であったとのこ
とである.この事実は,ムンプスワクチンの副反
応の判定にも,重大な誤りがあった可能性を示唆
している.
その後,予研によってワクチン株かどうかを
PCR
法で鑑別する方法が提案され
20
)
,北研からは
RFLP
法による鑑別法も報告された.現在では塩
基配列を直接決定することも容易になっているの
に,いまだに,生物製剤基準
11
)
にプラックサイズ
マーカー
は採用されていて,
「プ
ラッ
クサイズを測
定するとき,その値は参照ウイルスと同程度でな
ければならない」と記載されている.解説書
11
)
に
よれば,
「
ウイルスが製造中に集団として変化して
いないことを,プラックサイズの変化から確かめ
ることは可能である」とのことである.徳山ダム
が最初多目的ダムで計画され,発電所用に変更さ
れ,ついで治水目的に変わり,また多目的ダムに
目的を変更され,工業用,飲料水用といろいろ目
的を変えながら結局は計画を変更しないのと似て
いる感じがする.
4
.
不顕性感染率
4
)
ムンプスの予防に関する研究班(宍戸亮班長)
の報告書に奇妙な文章が掲載されている.
「
今年度
の試験接種のために罹患歴がないとして集められ
たワクチン接種前血清
307
例について不顕性感染
率の検討を行い,不顕性感染率は
94
/
307
(
31
%)
で
あった」
.抗体陰性を感染がなかったと判断する
ことは,当時の抗体測定の感度の低さを考えれば
少し問題があるが,それはこの際は無視しても,
あまりにも非科学的でびっくりしたことを思いだ
す
.不顕性感染率というのは無症状者数
/
感染者数
(
抗体陽性者数)と計算すべきなのを,抗体陽性者
数
/
無症状者数で簡単に算定している.もう少し詳
しく書くと,
A
:
感染して症状が出た者の数,
B
:
感染しても症状が出なかった者の数,
C
:
感染し
なくて,もちろん症状の出ない者の数とすると,
不顕性感染率は
B
/
A
+
B
であるのに,この文章で
は
B
/
B
+
C
が不顕性感染率として計算されている.
この報告が例外だと思いたかったのだが,同じ報
告書
4
)
のなかの東京大学関係の報告や総合成績にや
はり同様な方式で不顕性感染率が算定されている
ことを併せて考えると,当時はこのように不顕性
感染率が考えられていたとは驚きを禁じ得ない.
5
.
抗体検出方法
MMR
開発研究班(杉浦昭班長)の野外接種実
験は
2
回行われたが,いずれの場合も抗体陽転率
は低く満足すべき結果は得られなかった.従来の
中和抗体測定法
10
)
では,ワクチン被接種者検体の
多くが,最初の希釈段階のところで
50
%
前後の抑
制率を示したので,その判定に主観の入り込む余
地が多分にあった.そこで,抗体検出法の改善に
取り組み,補体添加中和法という高感度中和法を
確立し,当初認められた安定な成績が出ない欠点
も
,改善された
13
)
.この方法の特徴として
5
)
,
1
通常法と比較して感度が良い,
2
非特異的反応(
疑陽性)は極めて少ない,
3
プラック減少曲線
の勾配が急峻である,
4
ワクチン被接種者も抗体
検索においては,
16
倍希釈段階以降のところに,
50
%の抑制を示す検体が多く,陽転率の判定に主
観的要素の入り込む余地は少ない.ただ,
5
操作
が少し複雑なので,一般医療機関や検査機関で施
行するには少し困難な点がある.この補体添加中
和法を用いて,野外接種実験の検体を再評価した
ところ,前述したように,良好な陽転率が得られ
た
.その後開発された
EILSA
法は感度も高く,操
作も簡便なので,抗体測定法として優れているが,
必ずしも感染防御抗体を測定していないという点
は考慮しておいたほうがいいと思われる.改善さ
れた補体添加中和法は
ELISA
法と非常によく相関
するようになり,かつ両者の試験もかなり一致す
るようになったので,現在は
ELISA
法を用いて抗
体が測定される場合が多い.
その当時考えたことは,使用したムンプスワク
チンの免疫原性が弱いのではないかということと
抗体測定法の感度が低いのではないかということ
であった.自然感染における抗体の上昇とワクチ
ン接種後の抗体価とは明らかな差が認められるの
で,その意味ではより改善したムンプスワクチン
の出現が望まれるという正しい判断をしながら,
抗体測定法の感度を上げるほうに力を入れてしまっ
た.改善したムンプスワクチンを開発することは
簡単なことではないので,抗体測定法の改善に向
かったというのは,わからないでもないが,低い
抗体価の底上げを図った感があるのは否定できな
い.私自身の責任もあると反省している.
6
.
抗体価算定方式の問題点
低い中和抗体価を計算する方法として
Behrens
-
Karber
法が採用されていた
4,10
)
.その採用された
理由はわからないが,低い抗体価を高くみせよう
とする気持ちがあったような気がする.杉浦報告
書
5
)
には「計算方法として
Behrens
-
Karber
の方法
を応用して,各希釈段階の抑制率を加算するやり
方をしているけれど,どこまで加算するかという
点で曖昧さがある.また抗体価が実際より高くで
がちである.いかなる方法を採用しようとも,プ
ラッ
ク中和法の場合はプラック数を
50
%
抑制した
希釈数の逆数でもって中和力価とすべきだと思わ
れる」と記載されている.
IX.
今後の課題
現行のワクチンでは一定の頻度で無菌性髄膜炎
が発症することは避けられないが,自然感染に比
べればはるかに低いし,その病状も軽い.ワクチ
ン接種率をなんとかして高くしたいものである.
しかしながら,ムンプスウイルスは病原性と免疫
原性のバランスが非常に難しいウイルスのような
気がする.現行のワクチンは弱毒化という意味で
はまだ不十分かもしれないが,免疫原性は限界に
近づいており,現行ワクチンの改良にもあまり希
望がもてない可能性がある.
1995
年の木村報告
16
)
には,
「
無菌性髄膜炎の発生頻度が大きく異なる
2
つの占部株に関する臨床的,基礎的知見は今後
のムンプスワクチンの改良に際して貴重な資とな
るものと考えられている」と書かれているし,そ
の後占部株の塩基配列は解析されているので,そ
こから何か情報は得られていないのだろうか
21
)
.
ムンプスワクチンの任意接種が開始されたのが,
1981
年
2
月であり,
MMR
ワクチンの一般接種が
開始されたのが
1989
年
4
月で,その間に
8
年以
上の年月が経っているが,無菌性髄膜炎の副反応
が大きく問題になったのは
1989
年の夏頃である.
この理由は解明されているのだろうか.
ムンプスウイルスは一生の間ではかなりの人が
感染する.ムンプスでは死亡例は少ないかもしれ
ないが,必ずしも軽い疾患ではない.高度の難聴
も起きるし,無菌性髄膜炎もかなりの頻度で生じ
る.ぜひワクチンで予防したい病気である.
文 献
1
)
宮津光伸:ムンプスワクチンの副反応のとらえ方.
新・
予防接種のすべて
(堺 春美編)
.診断と治
療社,東京,
1997
,
108
2
)
宮津光伸,磯村思无:ムンプスワクチンとその問
題―有効性について―.予防接種のすべて(堺
春美編)
.診断と治療社,東京,
1994
,
80
3
)宍戸 亮:
ムンプスワクチン.臨床とウイルス
8
:
319
,
1980
4
)宍戸 亮:
特別研究 ムンプスの予防に関する研
究.
1979
5
)杉浦 昭:
弱毒生ウイルス混合ワクチン(
MRM
)開発研究報告書.
1983
6
)
高橋義宏,他:高頻度に髄膜炎をおこし,占部ワ
クチン株との異同が問題となったムンプスウイル
ス株(大館株)の臨床的検討.臨床とウイルス
24
:
30
,
1996
7
)青柳憲幸,他:ムンプス難聴.小児科
37
:
1273
,
1996
8
)
木村慶子:国産弱毒生ムンプスワクチンの臨床的
意義.慶應医学
54
:
503
,
1977
9
)加藤 篤:
おたふくかぜワクチン.臨床とウイル
ス
34
:
261
,
2006
10
)
速水正憲:ムンプスのウイルス学的・免疫学的検
査法.臨床とウイルス
8
:
306
,
1980
11
)渡邉治雄編:生物学的製剤基準 解説.じほう,
東京,
2007
,
34
12
)宍戸 亮,他:
1974
年麻疹・風疹・ムンプス三混
ワクチン野外接種成績.臨床とウイルス
4
:
75
,
1976
13
)
菱山美智子,他:ムンプス補体添加中和試験の改
良法と
ELISA
との相関.
臨床とウイルス
16
:
393
,
1988
14
)丸
山 浩
,富澤一郎:
MMR
ワクチン接種後の無
菌性髄膜炎発生状況とその対応.臨床とウイルス
22
:
77
,
1994
15
)
高橋理明:
MMR
ワクチンの現状.小児科臨床
43
:
751
,
1990
16
)
木村三生夫,他:わが国における自社株及び統一
株
MMR
ワクチンに関する研究.臨床とウイルス
23
:
314
,
1995
17
)
菱山美智子,他:おたふくかぜワクチン株プラー
クサイズの
Ve r o
細胞継代による変化.医学の歩み
153
:
445
,
1990
18
)
高尾信一,他:
MMR
ワクチン接種後に発症した
無菌性髄膜炎患者髄液から分離されたムンプスウ
イルスのプラークサイズの検討.臨床とウイルス
19
:
304
,
1991
19
)
山田章雄,他:
Polymera
se Chain Reaction
を用い
たムンプスウイルス株の鑑別.厚生省予防接種副
作用研究班報告書.
1989
20
)
山田章雄:ムンプスワクチン接種に伴う無菌性髄
膜炎の起因ウイルスの鑑別法.実験医学
8
:
207
,
1990
21
)森 千里,他:
ムンプスウイルス占部ワクチン株
の塩基配列の解析.臨床とウイルス
23
:
351
,
1995
2009
***