風邪薬で肝炎、痛み止めで腎臓障害、降圧剤で痛風、不整脈の治療でEDほか 完全保存版 知らないと危ない「クスリと副作用」一覧
2012.12.26 08:01
病気を治したいから薬を飲むのに、薬のせいで逆に体調を崩してしまう。じつは、こんなケースがあとを絶たない。死の危険に陥ることもあるという。どんな薬にも、必ず副作用はあるのだ---。
突然のめまいで交通事故に
30代のAさんは、風邪をひいて鼻水や発熱の症状があったので、市販の風邪薬を購入して飲んだ。だが、1週間以上飲み続けても発熱や倦怠感がとれず、10日ほどしてやっと病院を受診すると、薬物性肝炎にかかっていることが判明した。
「風邪薬による副作用で、私が診たときは黄疸が出ていた。最初はたしかに風邪だったのですが、薬の副作用で肝臓がやられ、途中からは発熱や倦怠感などの肝炎の症状に変わっていたのです。それとは知らずに素人判断で風邪薬を長期間飲み続けたため、どんどん肝炎が悪化していったのです。意外かもしれませんが、薬の中でも風邪薬の副作用はかなり多いのです」
この男性を診察した池谷医院院長の池谷敏郎医師が言う。風邪薬は症状を緩和するが、早く治す効果はないため、風邪の場合休養するのが一番。だが、3~4日薬を服用しても症状が改善しない場合は、病院へかかったほうがいいという。
このように、ある病気を治すために飲んでいる薬が、まったく別の病気の引き金になることは珍しくない。
たとえば、高血圧薬の一種のカルシウムチャンネル拮抗薬だ。血管の細胞は、血液中のカルシウムを利用して縮み、血圧を上げる性質がある。そこで、カルシウムの取り込みを邪魔するカルシウムチャンネル拮抗薬を投与することで血管を縮みにくくし、血圧を下げる。この薬の作用について、『副作用 その薬が危ない』の著者で、秋葉原駅クリニック院長の大和田潔医師が説明する。
「飲むと血圧が下がるのが手にとるように分かる、よく効く薬です。ところがこれには、うつ様の症状や眠気、だるさを引き起こす副作用があるのです。服用を止めたらうつが解消したという報告もあります」
高血圧の治療に使われる薬で、時に痛風が発症することがあるという。
「降圧薬のサイアザイド系利尿薬とループ利尿薬です。利尿薬を服用すると、血液中のナトリウムとともに水分が尿中に排出されて、血管壁にかかる圧力(血圧)が抑えられます。しかし、同時に尿酸の排泄が障害されて高尿酸血症を招き、痛風を引き起こす可能性が出てくるのです」(前出・池谷医師)
また、高血圧や不整脈の治療薬であるベータブロッカーの副作用は、男性には相当つらい。40代の男性患者が体験を語る。
「高血圧に不整脈もあったんです。それでベータブロッカーを処方され、飲んでいました。そちらはおかげで落ち着いていたのですが、なぜか男性機能のほうがさっぱりになってきたんです。主治医の先生に相談して、別の薬に替えたら、元気を取り戻しましたので、安心しましたが」

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糖尿病患者に投与されるインスリン。これによって、低血糖発作が起こり、頭がボーッとしたり、場合によっては意識を失うこともあるのだが、これに似た副作用が確認されているのが、禁煙補助薬として用いられているチャンピックス(バレニクリン酒石酸塩)だ。これについて、『知らずに飲んでる 最新「薬」常識88』の著書がある前出の池谷医師が警告する。
「この禁煙補助薬は、脳に直接働きかけて、タバコをまずいと思わせる効果があります。禁煙成功率44%という優れものの薬ですが、稀に眠気やめまいなどを引き起こすことがあり、それが原因で自動車事故も起きている。そのため、薬を服用する3ヵ月間は、車の運転はしないようにと指導することになっています」
おなじみの薬の中にも、意識障害などの副作用を起こすものがある。代表的なものが抗生物質だ。
性器にカビが生える
「ニューキノロン薬という、比較的新しい抗生物質があります。多くの細菌に効くので、よく使われていますが、脳の神経細胞に作用して痙攣発作や意識障害、不整脈や低血糖発作を引き起こすことがあるので注意が必要です」(前出・大和田医師)
抗生物質のせいで体の各部の常在菌が減少する。一方で抗生物質が効かない菌が増殖して、悪さをしだすこともある。
「女性器の外陰部にカビが生えることで起こる膣カンジダ症は、抗生物質の乱用で起こることがあります。カビの一種のカンジダ菌の異常増殖が原因です。
抗生物質は風邪に効く、と思っている人が多いですが、それは間違いです。ほとんどの風邪はウイルス感染で起こりますが、抗生物質はウイルスを殺せないのです」(前出・池谷医師)
意味のない薬を使って、副作用というオマケをもらうことほどばかばかしいことはない。そうした愚を犯さないためにも、副作用の知識は必須なのだ。
では、そもそも副作用とは何なのか。大和田医師の解説を聞こう。
「副作用は3種に大別できます。第1は、たとえば降圧剤を飲みすぎて低血圧になってしまうなど、その薬の本来の作用が強く効き過ぎて起こる副作用。第2は、その薬の作用からは全く予想できない症状の副作用。第3は、薬剤を体内に入れることで起きてしまう急速なアレルギー反応。この第3の副作用には、じんましんや呼吸困難、めまい、意識障害などをきたすアナフィラキシーショックなど危険な症状が出ることがあります。予測できず、どんな薬でも起こり得るものです」
覚えておかなければならないのは、どんな薬でも副作用が起こる可能性はある、ということ。だからこそ、服用に際しては、専門医の適切な処方と、患者側の正しい理解が不可欠だ。
「ただ、この治療でこの薬を使えば、ほぼ100%の確率で副作用が出るというものと、体質によってごく稀に副作用が出るというものがあります。この両者は、明確に分けて考えなければいけません。病院では、考えられる副作用をすべて説明するわけにはいかないので、高い確率で起こりうるものと確率は低いけれど起こると危険な副作用に絞って説明されています」(東京厚生年金病院泌尿器科部長・赤倉功一郎医師)
副作用で毛が生える
副作用があるのは西洋薬だけで、漢方薬にはないと思っている人もいるが、これも大きなまちがいだ。
「西洋薬は主に一つの成分が一つの薬剤になっているものがほとんどですが、漢方薬はいくつかの生薬を混ぜたものがひとつの漢方薬になっている。そのため、何種類かを組み合わせて飲むと、ある成分だけが多くなり、副作用を引き起こすことがあります。たとえば、甘草という生薬は、カリウムを体からどんどん排泄する効果があって、それを摂りすぎれば低カリウム血症といって、だるさや筋肉の麻痺などが起こりえる。そのほか、肺線維症、肝障害、胃炎、下痢など、さまざまな副作用も報告されています」(前出・大和田医師)
市販薬の副作用も、当然ある。冒頭の薬物性肝炎はその一例だが、ほかにも、アスピリンが含まれる痛み止め・バファリンなどの飲み過ぎによる胃潰瘍や薬物乱用頭痛(薬を飲むほどひどくなる頭痛)など、種々の副作用がある。
「薬局でも市販されるようになった『ロキソニン』も、抗炎症、鎮痛、解熱など幅広く使えて良く効く薬ですが、多用すると腎臓に負担がかかり、腎臓病につながる恐れもあるので、注意が必要です」(東京慈恵会医科大学附属病院腎臓・高血圧内科診療医長の横尾隆医師)
乱用ほど危険なことはないのだ。とはいえ、副作用ならすべて有害---というわけでもない。開発段階の予想とは異なる作用が出るのが副作用だから、中には〝いい副作用〟もある。その代表がバイアグラだ。前出の赤倉医師が言う。
「バイアグラは、もともとは狭心症の薬として開発され、臨床試験で効果がないことがわかった薬剤です。ところが、被験者がなぜか薬を手放したがらない。おかしいと思って調べたら、ペニスへの血流を増やす働きがあることがわかった。かくして生まれたのが、勃起不全の治療薬としてのバイアグラです」
まさに瓢箪から駒だが、似たようなケースはまだある。花粉症(アレルギー性鼻炎)で使われる抗ヒスタミン剤には、飲むと眠気を催すという副作用がある。これを逆手にとってつくられたのが、ドリエルなどの睡眠導入剤だ。
前立腺肥大の治療には、男性ホルモンの働きを抑える酵素阻害薬を使うのだが、この薬には、髪の毛を太くしたり、発毛を促すという〝いい副作用〟がある。
「そこで、同じ酵素に対する阻害薬が、一つはアボルブという前立腺肥大の薬になり、一つはプロペシアという男性用の脱毛症の薬になっています」(赤倉医師)
このように、薬にはプラスの副作用もある。とはいえ、やはり多いのはマイナスの副作用で、ときには重篤な障害を抱えたり、死に至るケースもある。
そんなときに頼りになるのが、「医薬品副作用被害救済制度」だ。薬を適正に使用したにもかかわらず、副作用が出て入院が必要な障害に見舞われたり、死亡した場合は、かかった医療費や障害年金、遺族年金などが支給される。独立行政法人の医薬品医療機器総合機構に問い合わせると、詳細を教えてくれる。
ただし、どんな副作用でも救済の対象になるというわけではない。対象外の副作用もある。その代表が、抗がん剤だ。
抗がん剤は副作用のデパートといってよいほどで、ありとあらゆる副作用が出る。よく知られているのは脱毛、吐き気や嘔吐、倦怠感、口内炎、味覚障害、下痢などだが、アレルギーや感染症、間質性肺炎、肺線維症、心障害、肝機能障害、腎障害など、全身のいたるところに副作用が現れる。
抗がん剤の副作用は、なぜこんなに多いのか。昭和大学病院腫瘍内科准教授の佐藤温医師が解説する。
「抗がん剤は、どんどん分裂していく細胞を攻撃する薬剤です。がん細胞がまさにそれなので、抗がん剤によって叩くことができるのですが、正常な細胞にも攻撃を仕掛けます。とくに頭髪の細胞、口の中の粘膜、小腸・大腸の腸管粘膜、白血球や赤血球、血小板をつくっている骨髄などは増殖が早いので、抗がん剤に攻撃されやすく、副作用が出やすいのです」
先に挙げた副作用の多くは、これが原因で生じる。中でも深刻なのが骨髄のダメージだ。細菌などの病原体を攻撃してくれる白血球が減少すると、種々の感染症にかかりやすくなり、死に至ることもある。
「そもそも抗がん剤というものは、第一次世界大戦のときにドイツで開発された毒ガス(マスタードガス)から生み出されたものです。毒ガスに白血球を抑える作用があることがわかり、がんの治療に応用したのが抗がん剤なので、毒をいかにうまく使うかがカギになるのです」(前出・佐藤医師)
抗がん剤には、あまり知られていない副作用もある。精子の減少や排卵障害などが起こり、「奇形が生じる恐れもある」(同前)。治療後1ヵ月程度は子作りは避けたほうがいい。
副作用は効いてる証拠ではない
一方、がん治療に関しては、分子標的薬という、まったく新しい薬剤も開発されてきた。
「分子標的薬は、主にがん細胞だけを叩きます。そのため、抗がん剤のような副作用は出ないけれど、皮膚にぶつぶつが出る、手の平や足の裏が赤くなったり剥けたりします。ただ、これらの症状の一部は薬の効果を反映していて、むしろ歓迎すべき徴候のこともある。ただし、抗がん剤の場合、一般的に『副作用は効いている証拠』というのは迷信です。我慢しすぎないでください」(同前)
抗がん剤の使い方は難しい。医師と患者が話し合い、治療方針を決めるようになってきた現代では、どういう治療を望み、いかに残された人生を送るかは、最終的には患者本人の意思にかかってくる。
'98年に前立腺がんを発症したプロゴルファーの杉原輝雄氏は、ホルモン療法の副作用で筋力が衰え、ドライバーの飛距離が大幅に落ちた。「生涯現役」という夢を完遂するために、杉原氏は途中でホルモン療法を止めて現役を続行し、'10年には同一大会連続出場の世界新記録を樹立。最終的にはがんが転移し、昨年末に亡くなったが、これもひとつの選択だろう。
「前立腺がんの治療で使われるホルモン療法は、男性ホルモンの分泌が抑えられるため、筋力が低下し、脂肪がつきやすくなるのです。天皇陛下もこの治療をされているので、以前よりもふっくらとされてきています。それ以外にも、ほてりや発汗といった更年期障害のような症状や、勃起障害や性欲の減退、前立腺肥大の薬と同様、毛が生えてくるという副作用もある。骨粗しょう症が現れることもあります。
化学物質を体内に入れるわけだから、どんな薬であっても副作用はあると考えたほうがいい。使わないと命にかかわるという場合は、多少の副作用は出ても仕方がないと考えますが、良性の病気なら副作用がないことを第一に考えるのが、医師の立場です。ただ、がんなどの場合は、副作用の危険性を患者さん自身が知った上で、自分の生き方、考え方によって治療法や薬を選択すべきです」(前出・赤倉医師)
副作用をやみくもに恐れるのも、楽観視しすぎるのも危険だ。まずは向き合い、知ることから始めよう。