MSD,日本の医師へ不適切な金銭供与2億円余
MSD,日本の医師へ不適切な金銭供与2億円余
2011-07-17
日本の大手製薬企業MSDが、自社製品の販売促進のため医師への不適切な金銭提供などを行ったなどとして、業界団体である日本製薬工業協会(製薬協)から2011年7月15日会員資格停止処分を受けた。会員資格停止は、除名に次ぐ重い処分。MSDは2010年秋に同様の行為で同協会から警告処分を受けたにもかかわらず、その後も違反行為を続けていたことが判明したため厳しい処分となった。
問題はその違反行為の中身である。これについては日刊薬業が、2011年5月20日の紙面で、MSDのトニー・アルバレズ社長の会見内容を伝えている。同紙によれば、社内調査の結果、判明した違反行為の概略は、以下の通りである。
①海外での医師向け研修」
2009年10月から昨年10月に経口糖尿病薬「ジャヌビア」の使用実績が多いオーストラリアの糖尿病研究・臨床施設で開催した研修プログラムに延べ48人の糖尿病専門医を派遣。1人当たり謝金5万円と旅費・宿泊費など約65万円を渡した(注:派遣された医師の中には公務員、みなし公務員も含まれている)。
②ワクチンのアドバイザリーパネル
HPVワクチンの実情・普及などのアドバイスを得るため、2010年9月から11月に実施したアドバイザリーパネルで延べ24人の参加医師に1人当たり7万円、コンサルタントミーティングで延べ64人の参加医師に1人当たり3万円の謝金をそれぞれ払った。(注:MSDはHPVワクチン「ガーダシル」の申請中だった。その後2011年7月に同ワクチンは製造承認されている)
③コレステロールに関するアドバイザリーパネル
高脂血症治療薬「ゼチーア」に関するアドバイスを得るため、2009年1月から2010年9月にアドバイザリーパネルを実施。勤務医対象パネルの参加者延べ2106人に1人当たり7万円、開業医対象パネルの参加者延べ1162人に1人当たり3万円を渡した。
④インターネット症例報告収集
他社の高血圧治療薬から同社の配合剤「プレミネント」に切り替えた場合の症例データを収集するプログラムを2010年11月に開始。医師に対し1症例につき1万円分の商品券を提供する予定だったが、外部からの指摘で12月に中止した。
今回発覚した供与金額の合計は約2億2000万円。延べ3400人余の医師に流れた。こうした大規模な金銭提供が、国内の医師の処方に影響を与えないと考えるのには無理がある。
しかも今回の問題発覚のきっかけになった業界団体「医療用医薬品製造販売業公正取引協議会」によると、2010年度に同会の規約違反で処分を受けた11件のうち、問題の大きい「本部レベル違反事例」は今回のMSDを含む3件であったが、他の2件(社名は公表されていないが)の違反内容は「複数府県で継続的に公務員に飲食接待」と「外国で開催された国際学会に参加した公務員を含む医療担当者に対する飲食接待」であり、いずれも今回と似たようなケースだった。MSDの件は、たまたま発覚した氷山の一角かもしれない。
そしてさらに問題なのは、日本の大手メディアが、今回のMSDの不適切な金銭提供事件について、ほとんど報じていないことである。製薬協による資格停止処分について、共同通信がわずか196字の記事で処分した事だけを伝えたが、金銭提供の具体的中身には一切触れられていない。金銭提供について詳報したのは日刊薬業などの業界紙のみであり、NHKや朝日・毎日・読売といった全国紙は、処分についても不適切な金銭提供についても一切報じていない。中には旅費・宿泊費・謝金あわせて約70万円を受け取った公務員もいるという事実は取るに足らないことなのだろうか。ニュース判断の基準はいったいどうなっているのか。
規制当局である厚生労働省も、このことについてはコメントさえ出していない。
米国では、2013年から、製薬企業が医師や研修病院に対する10ドル(約800円)以上のすべての支払いを、一般市民が見ることができるデータベースに公開しなければならないとする改革法”Patient Protection and Affordable Care Act”のサンシャイン条項が実施される。日本でも法的規制で金銭授受を明確化するべき時期である。
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