●日本のデータは合格? 神谷データの問題点
厚生省(当時)と日本医師会が共同で作成し、99年11月に配布したリーフレット『インフルエンザはかぜじゃない』の中では、高齢者への死亡に80%有効と明記し、この根拠としてCDCのMMWR46(RP-9)1997を出典としています。厚生省の担当官はこれと、1997・1999年に、神谷斎氏らが厚生研究科学費を使って行なった『ワクチン等による予防・治療に関する研究』(以下神谷データ)の結果が似通った結果であったとして、「ワクチンの有効性の根拠あり」としています。つまり、当時厚生省は国内論文(?)としては、神谷データだけを根拠に公的接種を推進しようとしました。
この研究は新潟県、愛知県、三重県、福岡県、4の地域、20施設で2140名、ワクチン接種群1123名、非接種群1017名を対象にされたもので、もちろんRCTではありません。死亡は82%の有効率、発病阻止効果は38~55%だったとされています。この死亡82%というのも、新潟県と福岡県ででた死亡者の相対危険を数値化したものです。(図1)実際、何人の人に接種して死亡が何人かは、感染症部会で質問が出て初めて早口の口頭でのみ説明がありました。「インフルエンザによる死亡と確認できるか」という質問に対して、神谷氏の回答は、「臨床的にインフルエンザ罹患を契機とした死亡もある」という回答でした。実際、データの詳細を入手したところ、多くの問題点が明らかになりました。
神谷データは、基礎データの脱落、だぶりが多く、死亡に82%効果ありとされている点は、作為的です。効果観察期間中に、均一な条件で比較すべきですが、観察期間前(死亡者が非接種者群に2倍以上多い)や、死亡原因も肺炎や発熱で死因のはっきりしないものを、施設の報告を無視して意図的に有為差をだしたものです。
また、同じく医療問題研究会の林敬次医師によれば、「高齢者や子どもへの接種を推奨するための厚生省研究の基本的弱点は、接種した集団が対照とした集団よりインフルエンザなどの疾患にかかりにくいことです。神谷班の高齢者の研究は、生活自立度、介護度、死亡率で接種しなかった群が悪く、流行外の発熱率や死亡率で補正すると、ワクチンの効果の有意差はなく、むしろ接種した方が悪化した「傾向があった」ことです。また、平成12年小児の研究では、対照者の方が、年齢が高い、過去半年間の感冒症状が少なく、同様にそれらで補正すると、有意差が出ていません。」ということです((注)その後はデータ隠しでこれらの検討はできないようです。)
厚生労働省のポスターはいまだにこの数字を利用して、80%の死亡阻止効果を謳っていますが。ワクチン効果の誇大広告といわざるを得ません。
私たちの結論は、現在においても、インフルエンザワクチンの有効性について、前橋データを越えるものはなく、公的接種を復活させるだけの国民を納得させるだけの資料はないということです。厚生省は、95年に高齢者への接種の勧奨をして以降、場当たり的に、論文を根拠として示してきました。厚生労働省は、国会の質疑でも、国内論文としては神谷データで、『高齢者死亡に82%の有効率あり』としていますが、少ない地域での、異なる施設でされたものであり、例数も少なく、調査期間も不充分なものです。その結果も2500万人の高齢者への公的接種を勧められる内容ではありません。私たちの質問、反論に答えず、はでなリーフレットを公共機関にばらまき、いかにも、インフルエンザワクチンの有効性が確立されたように装い、法改正を進めてきた厚生労働省の責任は重大です。衆議院の厚生労働委員会でも、有効性についての根拠論文については、疑問がだされていました。
一昨年前位から。高齢者にとって、「一定の有効性」しか認められないもの、乳幼児については、これから効果を調査するものについてまで、各地の公報では「予防接種は有効」として接種を推進しはじめました。今年は「予防接種を受けて下さい」という堂々とした内容になっています。高齢者だけでは頭打ちなので、その無効性ともあいまって介護施設や医療者への接種の強制が始まっています。
一方で、高齢者のみならず、わざわざ、高いお金を出してまで、家族全員で接種をする家庭が増えています。1450万本のワクチンを製造した手前、マスコミも含めてさまざまなまやかしの宣伝をしていますが、接種して、副作用が出ても、だれも責任をとってくれる人はいないのです。
「痴呆のお年寄りに接種できないのは問題だ」との見解に対する反論
高齢者施設での流行阻止には施設の環境整備が第一に必要であり、予防接種が仮に十分有効だとしても、根本的解決手段ではありません。
高齢者施設でのインフルエンザ対策が96年法改正の目的とされて、高齢者への公的接種を決めました。衆議院で附帯決議としてつけられた、「高齢者施設の個室化の推進」は、参議院では、「より良好な居住環境の確保」という、後退した表現となってしまいました。 高齢者接種で一番問題となったのが、同意の取り方の問題です。これは予防接種法上の接種とはしたものの、有効性があいまいで副作用があるワクチンであるために最後まで問題となったことです。
海外では、施設長の同意だけでは接種を認められていません。国会の審議でも大きな問題とされました。このなかで、「定期のインフルエンザ予防接種は、法律的には、全く任意である」と国会答弁がありました。したがって、一切の強制はしてはならないし、接種の同意も十分得た上でなければ接種してはならないこと、特に高齢者施設で、施設長の同意だけで接種してはならないことも確認されています。坂口厚生労働大臣自身も答弁で、「インフルエンザワクチンの有効性が十分であれば、痴呆のお年寄りにも同意の有無をいわずやってあげたいがそうではないので、この5年間有効性についても研究していきたい」という趣旨の答弁をしました。あちこちで高齢者はもちろん、介護者への接種の強制が日常化している現在、インフルエンザ予防接種の効果や危険性、改正にいたる多くの問題点が風化させられていることは残念なことです。
二.効かないことを証明した神谷研究
2002年9月、厚生科学研究の一つとして、平成12年度の「乳幼児に対するインフルエンザワクチンの効果に関する研究(主任研究者神谷斉氏、以下神谷研究とします)」、が発表されました。全国七地域、乳幼児約3000名に対するワクチンの比較研究です。結果は、ワクチンをすると、インフルエンザ罹患が有意に防げたというものです。疫学分析は大阪市大の廣田良夫氏が担当しており、なんとか有効性を捻出すべく、様々な操作を行っています。インフルエンザの罹患を三十九度以上と恣意的に設定していたり(国際的にはこんな基準はありません)、ワクチン接種群では年齢が有意に高かったり(高熱になりにくい)、元々扁桃炎が少なかったり(同じく高熱になりにくい)など、厳密な比較研究ができるものではありません。もっとも、そのような条件のもとでやっと「有効」を捻出した研究ですが、有効性の中身は貧弱です。まず、7地域のうち、有効とされたのはわずか二地域だけでした。全体で有効といっても、ワクチン未接種群の罹患23%が接種群では18%になっただけといったものです。有効率ですらわずか25%、薬の評価によく使うNNTでは十七、八でした。つまり、18人に接種してやっとひとりの罹患が防げるといった程度のワクチンであるという結果でした。一般的に、NNTが十を越える様な薬は、薬としての効果が問題とされます。ましてワクチンですから、問題外の数字です。何千万円もかけた研究ですが、神谷研究はあらためてインフルエンザワクチンの無効を証明した研究といえます。
日本の「ワクチンビジネス」の首謀者たち:無知のなせる技か? PART1
◎神谷 齊
(独立行政法人国立病院機構三重病院名誉院長)